創作怪談01「ツケの精算」
海に来ている。
波はなく、静かで、空は絵の具をぶちまけたように青い。
人っ子一人いないようである。
砂浜は照り返しがひどく、目が開けられないほどだ。
金色の砂に混じって、ところどころに白いかたまりがある。
それが海鳥だと気づいたのはしばらく後だった。
ウミネコに似ているが、黄色いはずの目が血走ったように赤い。
珍しい種類なのだろうか……。
今朝のニュースでは、近年は外国で渡り鳥の減少が激しいと言っていたような気がする。
同情心かきまぐれか、私は、手荷物から釣り餌を出して放おった。
オキアミが美味いのだろう。
見る間に数が増えた。
いつの間にやら家族連れなども現れて、菓子を投げ始めた。
かっぱえびせんか。海老が原料であれば好物だろう。
などと思っているうち、投げられた餌を一羽の鳥が立て続けに空中で捕まえた。
歓声が上がる。
それなのに、その家族の妙に赤い目をした男の子だけは、しきりと私の手を見つめる。
気になって目をやると、私の右手の指はもとからなかったかのように消えていた。
「次は左手だね」
不思議に甲高いその声を聞きながら、希少な羽毛を扱う商人として財を成した祖父のことを思い出していた。